Homeコラム都高六十年記念誌思い出あれこれ(7)

「トリツ」の思い出 吉田 夏生

 卒業してからはや三十有余年がすぎた。 わが子ですら、すでに高校を卒業している。

 母校も変わった。校舎は木造から鉄筋コンクリートに代わり、お世話になった先生のうち物故された方々は、五指に余る。

 青臭い春の年月のなかには不愉快な事もたくさんあったはずだが、時の流れは記憶を風化させるのか、今にしてふり返ると愉快な事のみが頭をよぎる。

 入学した頃は旧制高校的な雰囲気が少し残っていた。 マントを肩に高下駄で闊歩するという、いわゆる弊衣破帽スタイルの生徒も、ごく少数ではあったが、いた。

 入学して間もない頃、先輩たちから「トリツ」の良さ、或は伝統は「自由」と「自治」だ、と教えられた。 不要な規則に拘束されずに、生徒の自発性を発揮して学校生活を送ろうというような意味だった。

 事実、当時のトリツにはこのような雰囲気があった。 学校生活の中ではほとんど号令らしきものがなく、体育の事業も例外ではなかったし、先生に対しても「○○さん」と呼び生徒と一緒に生活しているという感覚を表そうとしていた。

 私はごく平凡な生徒であったが、三年間いろいろな体験をした。 記念祭での演劇やファイアーに参加し、多くのクラブに属し、自治委員長にも恥ずかしながら選ばれ、級友たちと「教師タナオロシの歌」を高唱した。 休暇中には、伊豆や房総を徒歩で旅し、しばしば野宿もしたし、授業をサボって砂川闘争にも加わったりした。

 今振り返ってみると、この自由には若干のエリート意識に裏付けられた甘えが伴っていたような気がする。 ロクでもない自由だったかもしれないが、貴重な自由であった。

(七期・旧職員)
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